今日は帰り遅くなるから、なんてよくあるメールを受け取ったのは夕方。
それを見たのは日が沈んでから。
いつもならば、この後パートのおばさん達に声を掛け、買い物をしてから帰るのだが、今日はそんな気にもなれなかった。
旦那が遅いのなら、夕飯を作る必要はない。
生憎、と言うべきか、幸いなのか、家族は旦那と自分の二人だけだ。
それならば、と近くにあったファミレスに足を向けた。
美味しいと評判で、一度行ってみたいと計画していたのだ。
この機会を逃す事なく利用する為、店へと入ると時間の事もあり、少々込み合っていた。
しかし、一人で来る客は珍しいらしく、すぐに席へと通された。
二人掛けのテーブルは一人で使うには少し広かったが、小さいよりは良いだろうと、メニューを広げた。
普通の定食屋と変わらない様な献立に微かに感嘆していると、ついたてを挟んで前に客が通された。
男女の二人組で、男が此方に背を向けて座った。
女の方は分厚く化粧が施され、見るからにケバく、化粧の匂いが漂って来そうだった。
近くを通った店員に声を掛け、本日のオススメを注目すると、彼女は営業用の笑みを向けた。

「いい加減にしてよ!」

その直後、聞こえた声に店員と同時に視線を動かした。
ざわり、周りの空気が動いたのが分かる。
静かではあるけれど、小さく話す声は目立っている。
店員は暫く固まっていたが、自分の役目を思い出した様で慌てて厨房へと戻って行った。

「もう、うんざりなのよっ!」

ヒステリックに叫ぶ女を男はなだめるだけだった。
注目した料理は美味しく、いつもならば喜々と食べていたのだろうが、今は耳に神経を集中させるのに必死だった。
どうやら、男の浮気が原因らしい。
しかし、男はヒステリックな女を至って簡単に丸め込んでしまった。
全く、酷い男だ。
ふと、二人が席を立ったのを見て自然と視線を上げると、今まで背を向けていた男の顔が見えた。
それは、よく見知った、旦那の顔。




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